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時代を開く 若き親鸞学徒たち

 海外留学、ボランティア、就職活動、専門研究など、個性を生かし、真実開顕に活躍する若き親鸞学徒の姿を追った。

「神なき時代」に生きる

 飛行機は一気に高度を下げた。雲を抜けると、パリの町が眼下に現れる。「いよいよフランス留学か」、期待に胸は高鳴った。

 大学院仏文学専攻の長谷部さんが、教授の強い推薦で、「エコール・ノルマル」(国立の研究者養成機関・リヨン市)の門をたたいたのは平成13年10月のこと。1年間の留学生活で実感したのは、「神なき時代」に生きる知識人たちの苦悩だった。

 長谷部さんの専攻は、フランス文学の最高峰といわれるフローベールである。この巨匠を選んだのは、大学2年の時、代表作『ボヴァリー夫人』に魅せられたのが理由だった。

「フローベールの特徴は、人間の心理を、主観を交えず、写実に徹して描くところにあります」

 登場人物の心の暗部、例えば友情の底に潜むエゴイズム、理想を口にする者たちの偽善性などを正確に描写した彼の諸作品は、世界中で翻訳されている。長谷部さんの当面の目標は、フランス人と対等にフローベール論を戦わせる実力をつけることだった。

フランス人のクラスメートたちの輪に努めて入り、不慣れだった会話も早々にマスターした。

「日本人の多くは、西欧人には卑屈に、アジア系の人たちには尊大になるとよくいわれます。でも、親鸞聖人より人間の実相を知らされれば、どこの国の人も変わりません。だれとでも同じ目線で話ができてこそ、親鸞学徒らしいと思うんです」

学内には洒落たカフェーが幾つもあり、長谷部さんも、丸テーブルを囲んで時を忘れてよく議論し合ったという。話題は、政治や芸術、哲学的な内容が多く、「お国柄」を感じたそうだ。


フランス第2の都市 リヨンの町並み

親鸞聖人の教えの深さを世界に

そんな環境の中で痛感したのが、カトリックの国フランスでも、知識人を自認する大半は、「無神論者」であり、共通の悩みを抱えていることだった。

「なぜ、生まれてきたか。生きているか。苦しくても生きねばならないか。この問いの、伝統的な答えが西欧では『神』だったのです。しかし、知識人たちは今、神の存在を信じられないでいます」と長谷部さんは語る。

神がただの幻想となると、「生きる意味」「生命の尊厳」は、どこに根拠があるのだろうか。「神なき時代」、知識人の卵たちの魂は激しく揺らいでいた。

今も残念に思っているのは、ある日、カフェーでクラスの仲間と議論した時のことだ。

「運命は神によって与えられるのなら、人間の自由意思はどうなるのか?」。昔からある、運命論と自由意思についての論題で意見が交わされた。
「日本人はどう考えるの?」と聞かれ、チャンスと思って因果の道理を話し出した。
ところが、「仏教の言葉を訳すのは、とても難しいんですね」。彼らは関心を示しつつも、「トレビアン!(素晴らしい)でも、君の言うことはちょっと難しいね」と言って、首をかしげた。「あの時ほど、語学力不足を悔やんだことはなかった」

リヨンでの生活を振り返り、長谷部さんは自信を持って語る。

「文学でさえ、極めれば世界の共感を呼ぶのです。ましてや弥陀の光明に照破され、赤裸々な自己を懺悔告白された聖人の魂の著作は、圧倒的な説得力で、違う文化の人たちにも迫ってくるはずです」

今、長谷部さんはフランス文学と映画批評を専門とする教授を目指し、博士論文に取り組んでいる。「フランス文学を通し、親鸞聖人の教えの深さを世界に知らせたい」

この情熱が、猛勉強の原動力となっている。

 

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※名前は仮名です。